ユーザー便り 藤川さん 「風にまけた日」

ここ数日、風がやたら強い。
トレーニングを終えて、いつもの帰り道。
私の横には、頼れる相棒――盲導犬のオズ。
ところがその日、様子が違った。
ぴたり。
オズが止まった。
一歩も動かない。
「どうした?」
声をかけても、前を見つめたまま。
リードを軽く引いても、びくともしない。
横殴りの風がビュウッと吹く。
街路樹が揺れ、看板がカタカタ鳴る。
……なるほど。
どうやらオズ、風が怖いらしい。
普段は堂々としている仕事人なのに、
今日は完全に「今日は無理です」の顔。
おうちまで、あと800メートル。
たった800メートル。
されど800メートル。
ベンチでしばらく休憩。
励ましてみる。
なだめてみる。
褒めてみる。
――動かない。
プロとしての意思表示が、むしろ固い。
最終手段。
私はスマホを取り出した。
「すみません、タクシーお願いします。
ええ、乗客は二人と一頭です。」
数分後、到着したタクシー。
ドアが開くと――
さっきまで地面に根を張っていたオズが、
何事もなかったようにスッと乗り込む。
……歩くのは拒否。
でもタクシーはOKらしい。
こうして私たちは、
残り800メートルを文明の力で帰宅。
風に負けた日。
でも少しだけ、
オズの新しい一面を知った帰り道だった。


