盲導犬ユーザー向井さん(散歩道)

盲導犬との新しい生活が始まってから一年、日々の出来事をレポートしてくださいました

散歩道

向井さん(三好市) 2021年7月

昨夏、エヴァンが我が家に来た当初、ある方から「犬はエサをくれる人よりも散歩に連れて行ってくれる人になつく」と言われた。真偽のほどは分からないが、幸いにして、私は二役を兼ねているので、当たりこそすれ、外れはない。

◆悪戦苦闘の末に

 毎朝、7時前にエヴァンの散歩に出るのが日課である。20分ほど歩き、20分ちかくかけてブラッシング、それからお待ちかねの朝食タイム。

大阪の日本ライトハウス・盲導犬訓練所で宿泊訓練を受けていたとき、散歩の道順を家族に考えておいてもらった。

実際に歩いてみると、人家の庭に迷い込んだり、広場で右往左往したり。挙句の果ては側溝に足を突っ込んだり。進退きわまって、誰かに道を尋ねようにも、たまにしか人が歩いていない。過疎地の過疎地たるゆえんだ。

この地へ移り住んで6年目。道を覚える前に視覚障がいがすっかり進んでしまった。このため、エヴァンに右折左折などの指示を出したくても、私の頭の中に地図が描けないのだ。

◆通学路デビュー

 落ち着いたのは、単純な道順で、クルマの往来が少なく、安全なコース。しぜんと通学路にかぶり、いつしか通学班の子供たちと会うのが楽しみになっていた。

最初、子供たちは「わっ、犬や!」と驚き、遠巻きに見ていた。「エヴァンって言うのだよ。エヴァンゲリオンのエヴァンだよ」

と教えると、エヴァンはすぐ子供たちの人気者になった。ボランティアや保護者の方から「エヴァンはお仕事してるんだよ」と聞かされ、子供たちがエヴァンにかける声が変わってきたように感じた。

◆盲導犬があぶり出したもの

 障がい者はとかく引きこもりがちになる。それが世間との距離をますます広げてしまう。私の場合も、エヴァンがいなかったら、子供たちと出会う機会はまずなかっただろう。

悲しいかな、エヴァンがいることによって、「犬はダメです」と、入店拒否に遭うことも少なくない。「補助犬法によって、不特定多数の人が出入りする店は盲導犬を断れないのですよ」と説くとますます意固地になる。

だが、希望がないわけではない。この子供たちが成人するころには、いくら田舎とは言え、変わりはじめているに違いない。